王歴721年某月某日

 マンダスク城の偉容が私たち親子を見下ろしていた。
 大人が横に八人並んでも優に通れそうなほど巨大な城門の前、門番を務める二人の兵士に挨拶をし来意を告げた。
 すると、二人のうちで年嵩のほうの兵士が申し訳なさそうな表情でこう云った。
「ただいま、城内への入場が差し止められているんです。何人たりともこれを通すなという達しが出ておりまして」
 他ならぬ王様から魔王討伐の勅命を賜る為に来訪したのだ。そう訴えたが、兵士は、お通しすることが出来ないのです、と繰り返すばかりで一向に埒が明かない。
 いちど我が家に戻り時間を置いて再訪するか、とも思ったが、最前、感動的な別れを果たしてきたばかりの妻や義父母とはやはり顔を合わせづらい。
 私はここで待つことにした。
 遊ぶのに飽きた娘が私の腕の中でウトウトとし始めた頃、ようやく城内からの使いがあらわれ私たちは中へと通された。



 メイドを務めるお嬢さんに先導され謁見の間へと歩を進めていく。その間、お嬢さんから、王様からの勅命を賜った後、王家の紋章が手渡されるので同時に受け取るようにと云われた。
 王家の紋章というのは、王様からの勅命を受けたものにのみ与えられるもので、これを所持しているものは、その勅命に関わるすべての事柄が免除される。云わば、最上級の身分証明書であり通行証である。
 ほどなく謁見の間に通された。
 玉座には王様が座り、その傍らには大臣が立っている。王様の隣にはもう一つの玉座があるがいまは誰も座っていない。おそらく、普段はそこに王妃様が座っておられるのだろう。王妃様は大変に奥床しい方である、世間に聞こえたその評判を目の当たりにするような思いだ。
 一通りの挨拶が済んだ後、大臣が王様に向かってそれではご勅命を、と小声で言うのが聞こえた。愈々だ、と私もこれを受け入れる心積もりを整える。