王暦721年某月某日

 吟遊詩人の発案に従って北東に進路をとって進むこと二日、我々の目に街の姿が見えてきた。
 吟遊詩人に確認をすると、ここが目指して来た街に相違なく、従って伝説の剣に関する情報も間違いなく手に入るだろうと自信に溢れた口調で云う。街の名称を尋ねると”ウンダナス”であると教えてくれた。
 街に入り、門番を務める青年に挨拶をすると「タイラスの街にようこそ!」と至極元気な調子で挨拶を返された。吟遊詩人に街の名前が違うことを問うと「古代語ではウンダナスと云う」と事も無げに答える。流石は吟遊詩人、言葉に関しての精通が我々とは段違いだ。
 そう感心しているところへ「このおじさんの云うことってみんな嘘っぽく聞こえるね」と、私の耳元で囁く娘に、伝説の吟遊詩人に対してそんな失礼なことを云ってはいけないと諭す。
 伝説の吟遊詩人は街の中を矯めつ眇めつするように見回している。一見すれば、お上りさんのようにしか見えないがそこは伝説の吟遊詩人のことだ、この街の風景に刺激され、我々には想像も付かない流麗な言葉が奔流の如くに浮かんでいるのだろう。


 街の規模は中程度だ。商家、教会、宿屋、民家らが程よい塩梅で存在している。先頭で娘とはしゃぎながら歩いていた大魔道士が宿屋を発見した。僅かな休息を取っただけの二日間、流石に疲れを感じ始めていたところだ。早速、宿に入って投宿の手続きをする。
 宿屋の主人は、娘が胸に下げている王家の紋章のレプリカを見ると途端に恭しい調子に変わって我々を遇し始めた。私が下げている紋章には目もくれない。たしかに娘のレプリカの方が時代がかかっているように見える。しかし私の紋章は王様から直々に下賜されたものだ。見る人が見ればどちらが本物の輝きを放っているかわかるだろう。
 所謂スイートルーム、またはVIPルームと呼ばれるような豪華な部屋に通される。ふかふかのベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねている娘を見ながら荷解きをする。そのうちに、娘に誘われて大魔道士までがぴょんぴょんとやり始めた。まるで小供だ。
  ようやく人心地が着いた頃になって吟遊詩人が外出を申し出る。聞けば、伝説の剣に関する情報を集めに行くという。ならばと同行を申し出たところそれには及びません、と、返答になっていないような返答をしてから一人で出て行く。