迷子の女の子である頬野あやちゃん(3歳)の母親である頬野耳子はその時、あやちゃんの姿を求めるあまりインフォメーションブースで怒り狂っていた。

娘を見失ったことからくる不安と、娘とはぐれてしまった自分への怒りが綯い交ぜとなった、半ば錯乱したような精神状態となっていた。

そうして、ブースで受け付けを担当していた菱川ほみ乃に「娘が見つかりやすくなるよう絶対的なアナウンスをしろ」とひどく抽象的な要望を出して困らせていた。

しかし手だれのほみ乃は耳子に対して、微笑みを浮かべたままそれ以上に取りあうことはしない。